抵当権1 抵当権とその範囲
抵当権とは、不動産を担保として、他の債権者に優先して弁済を受ける権利のことです。当事者の合意によってのみ成立する、いわゆる約定担保物件です。
AがC所有の土地に抵当権を有している場合、Cの一般債権者(担保を持たない債権者)であるBに優先して、債務の弁済を受けることができます。
A → 金銭消費貸借契約 → C
B → 金銭消費貸借契約 ↗
AとBはともにCにお金を貸していますが、AはC所有の土地に抵当権を設定する契約を締結しました。この場合、Cが弁済を怠ったために抵当権が実行されれば、Cの所有する不動産が競売され、その競売代金からAが優先的に弁済を受け、その余剰金額からBが弁済を受けることになります。それでも余ればCに返還されます(競売手数料もかかります)。
抵当権は、登記の先後でその優先弁済を受ける権利が決まります。これは、担保となる土地の現況を公示することによって、「この土地の価値からして、あといくらなら貸しても回収できるのか」ということをわかるようにするためです。でなければ、債権者は怖くてお金を貸すことができません。返ってくる見込み立たなければお金は貸せません。
ですので、1000万円のCの土地にAが600万円の抵当権を持っている場合、BがCに貸しても回収の見込みがあるのは400万円となります(もちろん、Cの資産がこの土地だけという前提です。)。600万円BがCに貸してしまった場合、400万円しか回収できませんから、Bは200万円を回収できません。これは当然ではありますが債権者Bの責任となりますので、泣き寝入りせざるを得ないことになります。
この抵当権は、あくまでも不動産に付随するものです。
不動産の所有者が代わっても、原則、ついてまわります。CがAの抵当権の付いた土地をDに売却した場合、Dは”Aの抵当権の付いた土地”を購入したことになり、Aに対して弁済しなければ、抵当権が実行されるとDはせっかく買った土地を競売にかけられてしまうことになります。これは、土地を買ったことにより、CのAに対する債務がDに移ったのではなく、Cは相変わらずAに対して債務を負います。
Dは、CがAに弁済しないと土地を競売されてしまう非常に不安定な立場におかれます。
この場合のDの救済策として、以下のような方法があります。
・代価弁済
Aからの請求により、DがCの代わりにAにCの債務を弁済する方法です。この場合、Aの債権は消滅します。それにより土地に付随していた抵当権も消滅します。そして、DはCに対する債権を取得します。Aの債権をDに売却したような形になります(正確には違います)。
DがAに対して、Cの代わりに債務を弁済して抵当権消滅を請求する方法です。代価弁済との違いは、Dからの申し出に拠ることです。
上記の双方とも、債権額と請求額は同じである必要はありません。AとD、双方の話し合い等で金額を決定して構いません。
抵当権の及ぶ範囲としては、次のようになっています。
民法370条
抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である抵当不動産の付加して一体となっている物に及ぶ。
土地と建物は別個の不動産として考えます。
付加一体物とは、その土地や建物に符合して一体となった物のことで、従物を含みません。従物と付加一体物の違いは、その独立性の有無で判断されます。
立木は付加一体物とみることができますが、その果実は原則、抵当権が及びません。ですが、債務不履行があった後の果実に関しては、債権者がその果実から優先弁済を受けることが認められています。