占有
占有とは、所有の意思を持って、物を所持することです。
物を所持するとは、
現実的に物を手に持っている必要はなく、自身の支配力の及ぶ管理下に置くことを意味します。
たとえば、Aが甲建物に住んでいる場合、Aは甲を占有しています。Aは、旅行に出かけてその日帰ってこなくても、甲建物とその備え付けの動産すべてにAの占有が及びます。Aが、Bに甲建物を賃貸した場合、Bも甲建物を占有しますが、Aの占有は失われません。この場合、Aの占有を間接占有、Bの占有を直接占有といいます。
占有に関する訴えを占有訴権といい、次の3つがあります。
1 占有回収の訴え。
民法200条
1 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる
2 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときはこの限りでない
この訴えの要件は”その占有を奪われたとき”です。Aが占有していた物をBが侵奪した場合、AはBに対して占有回収の訴えを提起できるとあります。そして、Bがその物を善意のCに譲渡していた場合、AはCに占有回収の訴えを提起することはできません。
Aに所有権があれば、所有権に基づく返還請求も可能です。ですが、Cの取得が即時取得にあたれば、Cは所有権を取得してしまいます。この場合、所有権に基づく返還請求はできません。この場合は占有回収の訴えを提起することになりますが、詐欺・遺失により物の占有を失った場合も、自身の意思・過失であり、占有を侵奪したとは言えないため、占有回収の訴えは提起できません。
場合によっては、盗難に関する特則が適用できる場合もあります。
2 占有保持の訴え
民法198条
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
この訴えの要件は“占有を妨害されたとき“です。Aが占有している土地にBが勝手に荷物を置いている時などです。この場合、AはBに対して占有保持の訴えを提起できます。
Aに所有権があれば、Bに対して所有権に基づく妨害排除請求も可能です。
3 占有保全の訴え
民法199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の排除または損害賠償の担保を請求することができる。
この訴えの要件は”占有を妨害される恐れ”です。まだ、占有は妨害されていません。ですので、訴えとしては、“その妨害の予防”または“損害賠償の担保”となります。損害が発生しないようにするか、発生したときのための担保を請求するということです。これは、“または”となっているので、どちらか一方しか請求できません。その前の2つの占有に関する訴訟では”及び”となっていましたが、占有保全の訴えは”または”であることに注意しましょう。
この占有と本権との関係ですが、占有の訴えの中での所有権(本権)の抗弁はできません。訴訟物の違いがあるからです。
AがBに対して占有回収の訴えを提起した場合、Bは「自分には所有権がある」との主張はできません。裁判のテーマとなっているのは占有であり、所有権ではないからです。所有権に基づく反訴を提起することはできます。
占有訴権の提起できる期間は、
1 占有回収の訴えは、占有を奪われたときから1年以内
2 占有保持の訴えは、妨害のある間はずっと、またはその消滅後1年以内
3 占有保全の訴えは、妨害されるおそれのある間はずっとです。